「運転管理支援システム」
活性汚泥は有機性汚濁物を処理する最も汎用的な処理方法で、処理の主体は好気性微生物です。
好気性微生物は多様な微生物から構成され、流入原水の基質と負荷と運転条件により、自ら多様に変化して処理を行います。
活性汚泥の運転は、好気性微生物がどのような状態にあるのかを把握し、いかに微生物が活動しやすい状態にしていくか、いわば微生物をサポートする操作になります。
活性汚泥の運転管理で最も重要な指標は、汚泥の活性(有機汚濁物を除去する能力)です。
そして好気性微生物の集合体である活性汚泥は、汚泥の酸素消費速度が、汚泥の活性の大きさを適格に反映します。
汚泥の活性は、BOD負荷の大きさで変化します。つまりBOD負荷が大きければ、汚泥の活性は増大することで大きくなったBOD負荷を処理することができ、BOD負荷が小さくなれば、汚泥の活性は低下します。この自己調整的な動きが活性汚泥の基本的な変化です。
BOD負荷に汚泥の活性が追従しない場合、何らかの通常でない状態があります。
例えば、DO、MLSS、pH等の運転条件の変化、阻害性廃水の流入、流入する廃水の基質の変化、などがあります。
それが処理悪化につながるようであれば迅速な対応処置が必要であり、改善方向にあれば処置が適切であった、ということになります。
これらのことを活性汚泥の運転管理技術とAIによるデータ分析で、現場の運転管理をサポートするのが「運転管理支援システム」です。
「運転管理支援システム」はTSアナライザーver2.5に搭載する機能です。
TSアナライザーは、1サイクル4hr程度で、汚泥の活性、原水の分解性、処理水BODなど、活性汚泥の運転管理に必要な20項目余の測定/計算を行い、PC画面にトレンド表示します。
「運転管理支援システム」は、1測定サイクル毎に、弊社の運転管理技術とAIによる計算で、PCが判断を行い、結果を言葉として表示するものです。表示内容は基本的に
①現在の汚泥の活性や処理水の状況や汚泥の沈降性が正常なのか否か、及びその理由
②今後の処理水BOD/COD予測や、運転状態の予測
③上記を踏まえて、今後の適正運転操作方法と異常がある場合にはその対応策
詳細は「運転管理支援システム概要解説」をご覧ください。
装置構成
TSアナライザーは、図1-1に示すように、活性汚泥の曝気槽出口付近に本体測定機を設置し、処理済みの活性汚泥混合液や流入する原水をサンプリングして、活性汚泥の運線操作に必要なさまざまな指標を測定し、監視室のPC画面に表示します。
微生物(以下、汚泥)の活性や沈降性、これから曝気槽に流入する原水を測定することで、現状の状態や今後の処理を予測できます。しかしながら測定データからこれらの事項を正確に読み取るには、活性汚泥の基礎的な知識・技術が必要で、個人差が生じます。
今回、TSアナライザー(TSA5型)に「活性汚泥運転管理支援システム」を付与することで、より有効な活用を目指しました。
図1-1:TSアナライザー(TSA5)の全体構成図
表示画面
「活性汚泥運転管理支援システム」(以下、AIsupport)は、TSアナライザーの測定データを使って、活性汚泥の運転管理技術とAIによる機械学習を活用して、現状解析および将来予測を行います。TSアナライザーのPC画面に付加する形で、言葉で表示するものです。
図1-2:活性汚泥運転管理支援システムのPC画面
「汚泥のBOD分解性」出力例
原水の基質変動がなければ、汚泥の活性の変化は曝気槽内の原水負荷の変化と連動して変化します。
これが活性汚泥の正常な動きです。
(1)安定して正常な処理状態のケース
汚泥の活性(赤①)と曝気槽内の原水負荷(赤②)は、ほぼ安定した状態です。
処理水BOD(ピンク③)やCOD(赤④)は良好で、他の指標に異常な値は認められないので、運転状態は正常と判断でき、AIsupportのコメントは、表記のようになります。
図2-1:安定して正常な状態
(2)活性が増大するケース
(2-1) 正常な活性増大
曝気槽内の原水負荷(赤②)が増加すれば、微生物にとっての餌が増加するので、微生物が増殖し、汚泥の活性(赤①)は増大するのが正常な動きで、活性が増大することで、負荷増に対して正常な処理が行われます。何らかの原因で負荷増大の変化に汚泥の活性が追い付かない場合、処理水BODが上昇します。
TSアナライザーは、これから曝気槽に流入する原水を測定しているので、数時間後の負荷予測が可能になります。
曝気槽のBOD負荷の変化と活性の動きから処理水BODの動きを予測して表示します。
曝気槽BOD負荷がさらに増大していくと、やがて汚泥の活性の増大が頭打ちになり、処理水BODは急激に悪化します。その状態がオーバーロードという状態になります。AIsupporは、段階に応じて警報および処置のコメントを表示します。
図2-2-1:原水負荷増による活性増大
(2-2) 活性のオーバーシュート
原水負荷が増大しなくても汚泥の活性が増大する場合があります。例えば、原水の基質が分解しやすい基質に変化した場合、阻害を受けていた汚泥が阻害の悪影響がなくなった場合、などがあります。また以下の場合もその例です。
直近で汚泥の活性(赤①)が原水負荷(赤②)の増大変化に追い付かず、未処理の状態が続いて曝気槽内が相対的に汚れている状態のとき、微生物の馴養が進んで微生物が増加しだすと、曝気槽内に餌となる汚濁物が豊富にあるので、一気に微生物が増殖して、流入する原水負荷以上に汚泥の活性が増大します。これが活性のオーバーシュートという現象です。
活性のオーバーシュートが発生すると、BOD処理能力が増大して活発に槽内BODを処理するので、処理水BODは良化に向かいます。
同時に酸素を大量に消費するので曝気槽DOは低下し、酸素不足に陥りやすくなります。
原水負荷、汚泥の活性、処理水BOD、曝気槽DOなどの変化から判断して、AIsupportのコメントは、表記のようになります。
図2-2-2:活性のオーバーシュート
(3)活性が低下するケース
(3-1)正常な活性低下
汚泥の活性(赤①)は曝気槽内の原水負荷(赤②)で変化します。原水負荷が低下すれば、微生物にとっての餌が不足するため、微生物が減少し、汚泥の活性は低下します。これは正常な動きです。
図2-3-1のケースでは、処理水BOD(③)やCOD(④)は良好で他の指標に異常な値は認められないため、運転状態は正常と判断でき、AIsupportのコメントは、以下のようになります。
図2-3-1:原水負荷減による活性低下
(3-2)阻害性による活性低下
原水負荷(赤②)があまり変わらないのに、活性(赤①)が低下するのは、何らかの正常でない状態が存在します。
図2-3-2のケースでは、原水阻害性(茶⑤)が検出されているため、阻害の影響で原水負荷の動向に対して汚泥の活性は横ばい状態で推移するはずが、低下しています。処理水BOD(ピンク③)やCOD(赤④)は活性不足で悪化傾向になります。
AIsupportは、特に阻害性について注意を喚起するコメントを表示します。
阻害の原因は、毒性を有する原水が流入する場合や、汚泥が馴養すれば処理できるが、測定時点では馴養していない場合や、負荷増に対して活性が追い付かず処理不十分となって阻害になる場合などが考えられます。
他の測定値から阻害の原因が特定される場合には、原因も表示されます。
図2-3-2:阻害性廃水流入による活性低下
(4)その他の現象の例
(4-1)低負荷過曝気の例
原水負荷の低下が続くと、汚泥の活性やMLSSが低下し、低負荷過曝気状態になります。
低負荷の状態では処理水BODは低い値で問題有りませんが、活性が極度に低下することで、通常の原水負荷が流入すると汚泥の活性の回復が追い付かず、その結果処理水に異常が発生します、そのような状況にならないように事前に注意喚起や対処が必要です。
原水負荷、汚泥の活性、処理水BOD、曝気槽DO、MLSSなどの変化から判断して、AIsupportのコメントは、図2-4-1のようになります。
図2-4-1:低負荷過曝気
(4-2)処理水BOD・COD異常の例
汚泥の活性と原水負荷の連動が正常でも、原水の基質や成分構成などで、処理水BOD・CODが警報レベルになる場合があります。AIsupportのコメントは予測計算により、警報理以下になる原水処理量を表示します。
注意:処理水BOD・CODの計算には、実測値との相関を設定する必要があります。
図2-4-2:処理水BOD・COD異常
3.「汚泥の沈降性」出力例
沈殿槽で、活性汚泥混合液が適切に沈降分離できているか、を判断します。TSアナライザーで測定する直接的な指標はMLSS、SV30、SV120(脱窒SV)や汚泥の浮上性、上澄み液の濁度になり、また異常の場合には、処理水BODや硝化活性など、他の測定指標を考慮して、異常の原因を推定します。
((3-1)正常は沈降性
SV30やSV120などから、汚泥の沈降性に異常は認められず、汚泥上澄み液の濁度が正常であれば、沈殿槽での分離は正常に行われていると判断し、AIsupportは図.3-1のようなメッセージを表示します。
図3-1:正常な沈降性
(3-2)沈降不良トラブル
沈殿槽での汚泥の沈降不良が発生する可能性は常にあります。沈降不良の原因は、MLSSが高すぎる、糸状菌によるバルキング、粘性バルキング、その他沈降不良、等々があります。
AIsupportは、SV30とSV120の変化、上澄み液濁度、MLSSなどから沈降不良の危険性があると判断された場合、AIsupportは図2-2-1のようなメッセージを表示します。 詳細対応の「沈降性不良」をクリックすると、さらに現象の説明や対応方法などを表示します。
図3-2:沈降不良トラブル
(3-3)脱窒による沈降性トラブル
沈殿槽での重大トラブルの一つに、沈殿槽での脱窒反応による汚泥の浮上トラブルがあります。
このトラブルは操業不可にもつながる非常に重大な事象なので、脱窒SVの沈降状態図で汚泥相の浮上分離が発生し、処理水BODや硝化活性などから、沈殿槽で汚泥浮上の危険性があると判断した場合、AIsupportは図2-2-1のようなメッセージを表示します。
詳細対応の「脱窒汚泥浮上」をクリックすると、さらに現象の説明や対応方法などを表示します。
図3-3:脱窒による沈降性トラブル
導入手順
①ご依頼の計画など机上相談
メールにて、ご依頼の要旨を、お知らせください。
Web会議などで、課題の共有化を行い、進め方を協議します。